SF映画などでAIが人間の能力を超越し、人類を支配するという場面をよく目にしますが、2045年にはそれが現実になるのではないかと論議を呼んでいます。人工知能が人間を超え、人間をコントロールする世界は本当に来るのでしょうか。AI研究者によるシンギュラリティ実現の可能性については賛否両論です。賛成派・反対派のそれぞれの見解や、シンギュラリティを語る際に必ず出てくる「2045年問題」について紹介します。また、AIの限界や特性を考慮したコールセンター業務におけるAIと人間の作業分担の方法についてもみていきましょう。
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シンギュラリティとは?
シンギュラリティが起こるかどうかはAI研究者の中でも意見が分かれており、今なお活発に議論されています。一体シンギュラリティとはどのようなことを指し、実現することで起こりうる問題とはどのようなものでしょうか。
シンギュラリティとは
シンギュラリティ(技術的特異点)とは、人間の知能レベルにAIが到達し並ぶ時点を指す言葉です。既に1980年代には、AI研究者の間で使用されていた言葉ですが、この言葉が世に広まったのは、1993年に発売された数学者であり作家のヴァーナー・ヴィンジ氏による「The Coming Technological Singularit」というエッセイだと言われています。その後、2005年にAI研究第一人者のレイ・カーツワイル氏が著書「The Singularity is Near」で2045年にシンギュラリティが起こると予想したことにより、再び「シンギュラリティ」という言葉が世間で注目されるようになりました。しかし、研究者の間でもシンギュラリティが実際に起こるのか否かについては様々な意見が存在しています。
シンギュラリティ肯定派
シンギュラリティの実現に肯定的な意見を持つレイ・カーツワイル氏は「2029年にはAIは人間並みの知能を備え、2045年にシンギュラリティが起こる」と提唱しています。また、イギリスの物理学者 スティーブン・ホーキング氏やマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏をはじめとする有識者たちも、AIが人間知能を上回る未来が実現し、人間の存在意義が崩壊するなどの危機感を抱いています。AIは人間が発明する最後のロボットとなり、それ以降はAIによって新たなロボットが発明・生産され、人類にはもう手の付けようのない世界が訪れるというのが、肯定派の主張です。
シンギュラリティ否定派
その一方、AI研究の権威者ジェリー・カプラン氏やドイツの哲学者であるマルクス・ガブリエル氏、ケンブリッジ大学教授のジェリー・カプラン氏はシンギュラリティの実現には否定的です。AIはあくまでも人間をサポートするものであり、人間のような欲求や感情が存在しないため、人間を超えることはないと主張しています。改革や発明をする際に必要なのは「こうなりたい」という感情で、その気持ちが生み出すエネルギーがその試みを成功へ導きます。しかし、AIの情報や処理能力が不足していている場合、それ以上前に進むことはできません。そのため、映画のようなAIが支配する世界は来ないというのがシンギュラリティ否定派の意見です。
シンギュラリティにおける「2045年問題」
レイ・カーツワイル氏の提言通り、2045年にシンギュラリティが起こった場合、AIが多くの仕事を担うようになるなど、人類社会において大きな変化が起こり、様々な問題が社会にもたらされます。これらの問題を総称したのが「2045年問題」です。2045年まで残り約20年で、どのような変化が起きるのか注目しておく必要があります。
AIの限界は
AIの技術は日々進歩していますが、果たして人間を超えることは可能なのでしょうか。
結論から述べると、現状AIは万能ではありません。「論理・確率・統計」で処理するAIは、あくまでも計算する機械だからです。統計を用いて情報を比較し、推測することは可能ですが人間のようにニュアンスや行間を読み取ることができません。例えば、花子さんは太郎君が好きです。太郎君もまた花子さんが好きです。人間であれば2人は両思いだと紐づけることができますが、感情のないAIには「両想い」という結論を導くことができません。また欲求や追求心も備えていないため、これまで多くの発明を行い文化発展を遂げてきた人間をAIが超えることは不可能だと言われています。
AIの得意分野と不得意分野
AIにも得意不得意が存在します。AI活用・導入において、それらを理解し適材適所を見極め、配置していくことが重要です。
AIの得意分野
AIは計算などの数値化された情報を処理する能力に長けています。そのため、データ入力などの単純作業や、画像や映像からの分析・データ抽出などが得意です。AIであれば、人為的ミスもなく、休む必要がないため長時間の作業が可能です。
AIの不得意分野
AIは人の感情を読み取ることを不得意とします。感情は笑っているから「うれしい」泣いているから「悲しい」という一定の法則で理解できないものです。悲しくても無理に笑っていたり、嬉しくて泣くこともありますが、この数値化されないニュアンスを読み取ることは現在のAIには不可能だとされています。またクリエイティブな分野も苦手です。新しい発想やストーリーの構築など何かを作り出す作業は感情や探求心を持ち合わせていないAIにはできない分野です。
コールセンターにおけるAIの在り方
すでに多くのコールセンターでAI技術が導入されています。人とのコミュニケーション能力を必要とするコールセンター業務で、AIはどのような業務を担い、お客様のサポートをしているのでしょうか。
コール業務へのAIの適性は
AIは記憶力や計算力、情報収集能力、統計においては人間より優秀です。そのためコールセンター業務において、過去のデータを分析し必要な情報を瞬時に引き出すことが可能なAIは、よくある問い合わせの受け応えなどに適しています、しかし、お客様の感情を読み取ることができないAIは、クレーム対応や過去にない事例を対応することは難しいため、人間のスタッフで対応するなどの対策が必要です。
AIと人の作業分担
AIと人間のそれぞれの特徴を活かし、業務分担することがAIをうまく活用するポイントです。例えば、頻度の高い問い合わせなどには、チャットボットやボイスボットを活用することで人間スタッフの負担を軽減させることができます。しかし、AIが不得意としている複雑な問い合わせやお客様の心に寄り添った対応が必要な場合は、人間スタッフが応じるのが賢明です。しっかりと作業分担を行うことによりお客様に快適で満足の得られるサービスの提供を可能にするだけでなく、より効率的にコールセンターを運用を実現します。
人とAIの特性を見極め適材適所に
AIの発明は紛れもなく人類にとって多くのメリットを生み出しています。そして今後もどんどん進化し、ますます人間社会にとって必要不可欠なものになっていくでしょう。しかし、万が一シンギュラリティが実現すれば、失業者の激増をはじめとする大きな変化が起こり、社会の在り方だけでなく、人類の存在定義までもが覆される可能性があります。現状では、AIの能力は人間を上回ることはできないという意見が多数ですが、今後のAIの開発や導入においては慎重な協議が必要です。AIと人間の特性を見極め、AIも人間もそれぞれの強みを活かし活躍できる環境に置くことが課題となります。AIと人間がお互いの苦手を補える社会こそが、これから目指していくべき次世代社会の仕組みなのです。