Web3.0やメタバースが世に浸透し始める一方、デジタル化の波に追い付いていない地域も存在します。日本全体で少子高齢化が進み、人口減少に歯止めがかからず「消滅可能性都市」に認定されてしまった自治体は900近くにのぼります。消滅の危機に瀕している自治体に必要とされるのは地域経済やコミュニティの活性化であり、その一助を担うのがWeb3.0の基盤となるブロックチェーン技術です。民間企業とタッグを組み、行政サービスにブロックチェーンの技術を取り入れ、より良い街づくりを目指している自治体は少なくありません。地方創生の概要からWeb3.0を行政サービスに導入している事例、そのメリットと課題までを見ていきましょう。
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地方創生 x Web3.0
日本創成会議により2014年に「消滅可能性都市」が発表され、896の自治体がリストアップされました。日本では数多くの自治体で人口減少が問題となり、どの自治体も活性化に必死です。ここでは、地域の活性化を目指す「地方創生」について説明します。
地方創生とは
過疎化や少子化による地方地域の衰退に対応するべく、2014年、第二次安倍内閣の時代に「まち・ひと・しごと創生法」が執行され、全国的に地域活性化が促されました。これにより、地方地域の活性化や持続的な発展を目指す取り組みである「地方創生」という言葉も広く知られるようになります。地方創生の取り組みは、地域の特産品を活かす地域振興だけでなく、地域雇用の増加や生活環境の向上など、幅広く地域経済の発展を目指すものです。
地方創生 x Web3.0
地域経済の活性化を目指す地方創生の一環として、「地域通貨」を導入している自治体は数多く存在します。地域通貨は法定通貨とは異なりますが、特定の地域内で流通するため、地域経済の活性化とコミュニティの発展を促進することが期待できます。しかし、紙ベースの地域通貨は管理や運用にコストがかかるため、その普及は限定的でした。それがデジタル化により、コスト問題が解消され、近年、デジタル地域通貨を発行する自治体が増えています。特に、暗号資産の技術を応用したデジタル地域通貨は、取引履歴や所有権の透明性を確保でき、その安全性が高まります。また、地域通貨の使用範囲や交換ルールを柔軟に設定できる「スマートコントラクト」と呼ばれるプログラムにより、利用の便利性が一層向上します。
Web3.0 x 行政サービスの導入事例
Web3.0は分散型のブロックチェーン技術を基盤としているため、透明性の高い取引が可能です。Web3.0を行政サービスに導入している地域について、具体例を見ていきましょう。
飯塚市:公的証明書のデジタル化
福岡県飯塚市は2021年1月、全国に先駆けて行政文書のデジタル化に向けた社会実験を開始しました。一般企業4社と飯塚市で約2年にわたり行ったのが、インターネット上で電子データの取り扱いを安全に行えるか、電子データの信頼性確保に向けた仕組みづくりのための実証実験です。第一弾ではダミーデータを用いた住民情報の電子公布、第二弾では実データを用いた所得証明書の電子公布について検証しています。実証実験の参加者の8割はデジタルデータの交付に好意的であり、2023年現在ではマイナンバーカードを用いてコンビニエンスストアで公的証明書を取得することが可能になりました。
【参考】ブロックチェーン技術を活用した行政文書電子交付の実用化に向けた実証事業成果を公開
加賀市:スマートシティ宣言
石川県加賀市は、日本創成会議により発表された消滅可能性都市リストに名を連ねてしまうほど人口減少が激しい都市の1つです。1990年頃をピークに減少を続け、2040年にはほぼ半減するうえ高齢者の割合が45%になると予想されています。高齢化により従来型の都市マネジメントに限界を感じ、2020年3月に加賀市スマートシティ宣言が出されました。若年層に向けた教育だけでなく、企業と協力のもとアバターを活用するなど積極的にデジタルを取り入れています。行政サービスもデジタル化を取り入れ、2020年8月にはマイナンバーカードを利用したスマートフォンでの個人認証が開始されました。2020年度には電子申請できる種類は139件にのぼっています。
磐梯町:地域商品券
磐梯町は2021年、地域経済の活性化を目的に、町民に向けてブロックチェーン技術を活用したデジタル地域通貨「磐梯デジタルとくとく商品券」を発行しました。人口3,400人ほどの小さな町は高齢者が多いものの即日完売となる盛況ぶりでした。その後もデジタルリテラシーの向上が感じられた同町では、2022年度には町民以外も利用できるデジタル通貨「ばんだいコイン」を発行し、地域の活性化に一役買っています。
【参考】世界最先端のブロックチェーンの技術を活用した「磐梯デジタルとくとく商品券」販売開始
【参考】県内初の地域デジタル通貨「ばんだいコイン」の運用を開始します
行政サービスへブロックチェーンを導入するメリットとは?
行政サービスのブロックチェーン導入は、住民と行政機関の双方にメリットをもたらします。具体的にどのようなメリットが得られるのかを紹介します。
自宅で行政手続きができる
公的な手続きや証明書を取得するために役所に行き、長時間待たされたという経験は誰にでもあるのではないでしょうか。行政がブロックチェーンを活用したシステムを導入すれば、住民は自宅から必要書類を申請・取得できるようになります。オンラインであれば窓口の営業時間を気にすることなく手続きが可能になり、利便性が大幅に向上するでしょう。
行政窓口業務の軽減
行政のデジタル化は行政側にも利益をもたらします。オンライン申請が可能になると、窓口での業務負担が軽減されるだけでなく、紙の申請書を受け取り転記する必要がなくなります。これは資源の節約にも寄与します。また、ブロックチェーンのスマートコントラクトを活用すれば、一部の手続きが自動化され、より迅速かつ安全に手続きを進められるようになるでしょう。
セキュリティの向上
ブロックチェーンを用いた取引では、電子署名による本人確認、改ざん防止チェック、ハッシュ値を用いたデータ検証が多重に行われます。これにより、なりすましやサイバー攻撃による不正なデータの書き換えを防止することができます。また、P2Pネットワークの性質上、一部のサーバーが停止したとしてもシステム全体が停止することはありません。そのため、災害などの予期せぬ状況が発生しても行政サービスを継続して提供することができます。
ブロックチェーン導入の課題
ブロックチェーンは行政と住民双方に大きな利点を提供し、地方創生にも貢献可能です。しかし、その導入にはいくつかの課題を解決する必要があります。ここではブロックチェーン導入の課題について見ていきましょう。
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秘密鍵の管理
ブロックチェーンでは、「公開鍵暗号方式」が利用者の署名作成に採用されています。この方式において作成される秘密鍵は、他者に漏洩しないように厳重に管理する必要があります。秘密鍵が第三者に漏洩した場合、データが不正に操作され、大規模な被害を引き起こす可能性があります。また、特権的な管理者がいないブロックチェーンでは、原則として紛失した秘密鍵の再発行は不可能です。そのため、紛失に備えて秘密鍵のバックアップを作成しておくことが推奨されますが、このバックアップした秘密鍵もまた漏洩しないよう厳重に管理する必要があります。
プライバシーの保護
パブリックブロックチェーンの場合、記録された情報は誰でも閲覧できる状態になります。そのため、パブリックブロックチェーンを利用して地域通貨を作成した場合、取引の履歴から個人情報が推測できてしまう可能性があります。地域通貨の目的にもよりますが、プライバシーの保護を優先する場合はプライベート型のブロックチェーンを利用するのが良いでしょう。
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ユーザーサポートの重要性
地方行政をデジタル化するためには、住民のデジタルリテラシーを高めることが重要です。特に、新たな技術であるブロックチェーンは、基本的な理解から利用方法、そして注意点までを時間をかけて周知する必要があります。住民向けのヘルプデスクやチャットボットといったサポートチャネルの提供はもちろん、新しい技術に適応できない住民が置いていかれないようなサポート体制を構築することも重要です。
Web3.0で地域活性化!行政サービスにWeb3.0を取り入れよう
日本では、少子高齢化と人口減少が進行し、将来的に消滅が予想される自治体が900近く存在します。これらの自治体が存続し、また消滅の可能性を回避するためには、住民が引き続き住みたくなるような街づくりが必要不可欠です。デジタル化は行政の効率化のために重要ですが、さらにブロックチェーンの活用によって地域の新たな魅力を創造することも可能です。ブロックチェーンを行政サービスに導入するには、新しい技術への理解とセキュリティやプライバシーへの配慮が必要となりますが、それらを適切に管理すれば、その結果として得られる利便性は大きなメリットとなります。地方創生の一環として、行政がブロックチェーンの導入を検討する価値は大いにあるでしょう。